アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎とは、皮膚のバリア機能が低下し、かゆみを伴う湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返す病気のことです。子どもの頃に発症することが多く、一般的には成長と共に症状は改善していきますが、成人でも1~3%の人が罹患しているとされています。明確な発症メカニズムは解明されていませんが、遺伝やアレルギーを起こしやすい体質などが発症に関与していると考えられており、喘息ぜんそくや花粉症などアレルギーによる病気を併発しやすいのも特徴です。現在のところ、アトピー性皮膚炎を完治させる科学的に根拠のある治療はありません。治療は、症状を改善させるため皮膚の炎症を抑えるステロイド薬や免疫抑制剤の塗り薬やかゆみ止めなどを用いた対症療法が行われます。また、皮膚のバリア機能を改善させるため、保湿の徹底など日頃のスキンケアも重要となります。2018年、従来の治療法で十分な効果を得られないアトピー性皮膚炎に対し生物学的製剤が使用可能となりました。また、外用JAK【ヤヌスキナーゼ】阻害薬や経口JAK阻害剤が使用可能となっています。
アトピー性皮膚炎には、サイトカインと呼ばれる炎症物質が関与しています。サイトカイン(細胞外の刺激)を細胞内に伝達する酵素がJAK(ヤヌスキナーゼ)です。サイトカインが細胞にくっつくと、JAK経路が活性化して炎症やかゆみを引き起こします。コレクチム軟膏は、JAK経路をブロックすることで皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。コレクチム軟膏(一般名:デルゴシチニブ)は、アトピー性皮膚炎を適応とした世界初の外用JAK阻害剤です。0.5%製剤(成人用。小児も使用可能)が2020年6月に、0.25%製剤が2021年6月に国内販売が開始されました。先述したJAKにはJAK1・JAK2・JAK3・Tyk2の4種類があり、コレクチムはこれらすべての作用を阻害する効果があります。細胞内シグナルを阻害することでサイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31など)による過剰な免疫の活性化を抑え(STATの活性化を抑制)、皮膚の炎症を改善します。1日2回、適量(1回あたりの塗布量は最大5g)を患部に塗布します。年齢適応は2歳以上となっています。既存のアトピー性皮膚炎治療薬であるステロイドやタクロリムス(プロトピック)と比較し分子量が小さく、容易に皮膚で経皮吸収されます。ステロイドの長期使用による副作用を軽減する目的で作られた薬剤なので皮膚萎縮や血管拡張などが起こらない為、顔面や頸部などのステロイド外用薬を長期塗布したくない部位での場合にも適していると思われます。しかし反面、ステロイドと比較すると効果は弱い印象があります。しかし、プロトピックの様な刺激感もなく使いやすい薬です。副作用としては、頻度はさほど多くはないですが、免疫抑制剤である為ニキビやヘルペスの様なで皮膚感染症を起こすことがあります。これは他の抗炎症外用薬と同様です。やむを得ず使用する場合には、適切な抗菌・ウイルス・真菌薬による治療・併用が必要です。粘膜やびらん面には使用できず、妊娠または妊娠している可能性のある方や授乳婦の方には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用されます。治療開始4週間以内に皮疹の改善が認められない場合は使用を中止する事となっています。
またモイゼルト軟膏(一般名:ジミファミラスト)は、アトピー性皮膚炎を適応とした国内初のPDE4阻害剤です。2022年6月1日より販売が開始されました。1%製剤(成人用。小児も使用可能)と3%製剤(小児用)があります。ホスホジエステラーゼ(PDE)4という酵素があり、PDE4は多くの免疫細胞に存在する酵素で、cAMPという物質を分解する働きがあります。cAMPの分解が亢進し細胞内のcAMP濃度が低下すると、免疫細胞からの炎症性物質の産生が亢進してしまいます。つまり、PDE4は炎症物質を分解しにくくする働きがあるという事になります。モイゼルト(ジミファミラスト)は、このPDE4の働きを阻害することによって炎症細胞内のcAMP濃度を高め、過剰な炎症物質の産生を制御することにより皮膚の炎症を抑制します。1日2回、適量(コレクチム軟膏、プロトピック(タクロリムス)軟膏と異なり、塗布量に制限は無し)を患部に塗布します。年齢適応は2歳以上となっています。こちらもコレクチムと同様、ステロイドの長期使用による副作用(皮膚萎縮や血管拡張など)が起こらない為、顔面や頸部などのステロイド外用薬を長期塗布したくない部位での場合にも適していると思われます。
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能が低下することが原因で引き起こされる病気です。私たちの皮膚は4つの層で構成されており、もっとも外側を“角質層”と呼びます。角質層には皮膚内部の水分が蒸発して皮膚が乾燥したり、病原体や異物が侵入したりするのを防ぐはたらきがあります。このようなはたらきをバリア機能と呼びますが、アトピー性皮膚炎はこのバリア機能が低下するため皮膚に異物が侵入しやすくなり、アレルギー反応を引き起こすことで発症すると考えられています。一方で、どのようなメカニズムで皮膚のバリア機能が低下するのか明確には解明されていないのが現状です。しかし、遺伝やアレルギー体質などが関与しているとの考えもあり、近年ではアトピー性皮膚炎患者は皮膚の水分保持を担うフィラグリンと呼ばれるタンパク質が少ないために皮膚が乾燥しやすい状態であることが分かっています。アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う湿疹が生じ、よくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。特にダニ、カビ、汗などによる物理的な刺激やストレスなどはアトピーの症状を悪化させることが知られています。アトピー性皮膚炎の多くは1歳未満で発症し、発症直後はかゆみを伴うじくじくとした赤い発疹が顔から首、頭皮、手、腕、脚などに現れます。そして1~2か月ほど経過すると、患部が乾燥して皮膚が厚くなったように変化していくのが特徴です。発症部位、かゆみの程度などには個人差がありますが、一般的に乳児は体の広い範囲に湿疹ができることが多く、成長すると首の全面や膝・肘の内側など限られた部位にのみ現れるようになります。また、かゆみは非常に強いことが多く、患部をかきむしってしまうことで皮膚のバリア機能がさらに低下し、アトピー性皮膚炎の症状がさらに悪化するという悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。さらに、そこからウイルスや細菌などが侵入して感染症を合併することもあり、長期間アトピー性皮膚炎を患っている人で特に顔の症状が強い場合は10~30歳代で白内障や網膜剥離もうまくはくりなどを引き起こすケースがあるため注意が必要です。
アレルギーが生じているときに高値となるIgE抗体と呼ばれるたんぱく質や、アトピー性皮膚炎を発症すると産生が増加するTARCと呼ばれる皮膚の細胞から作られる物質の量を調べるために、血液検査を行うことがあります。ここでTARC検査は、アトピー性皮膚炎の症状の勢いを調べることができる血液検査です。アトピー性皮膚炎の治療を正確にすすめるために初めて日常診療での応用の方法を見出した検査でもあります。TARCとは、簡単にいうと“炎症が起こっているときにTh2細胞が出す物質”です。Th2細胞から放出されたTARCは皮膚に広がり、血液に入り込んで全身をめぐるため、採血をするとその量が分かります。皮膚の炎症を“火事”にたとえて考えるとイメージしやすいかもしれません。皮膚という現場でどれくらいの規模の火事が起こっているのか、その火の勢いを調べる検査ということです。TARC検査には次のようなメリットがあります。初診でTARC値を測定すると、患者さんが自分の状態を客観的に把握することができます。症状が長く続いていると、どれくらい悪いのか自分では分からなくなってしまうため、数値で確認することが有用です。症状が落ち着いていると思っても、TARC値が高かったり上下したりするときは、症状をコントロールできていないのだと意識することが大切です。例外として、慢性的に重症の状態にある患者さんや結節が皮膚症状の主体となっている患者さんでは、TARC検査に重症度が反映されないケースがあるため、TARC値が正常だから安心とは限らないことに注意が必要です。アトピー性皮膚炎では、症状が軽いように見えても実は皮膚の中で炎症が続いていることが少なくありません。TARC値が少し下がって見た目がよくなると、治ったと思い治療を止めてしまう患者さんがいますが、見かけだけで判断して治療を止めると、体の中に残っている炎症が再燃して症状の悪化を繰り返す可能性があります。TARC値が高いときは体の中に炎症が残っているのだと意識しましょう。
また、特定のアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)の有無を調べるためにアレルギー検査を行う場合もあります。アレルゲンを特定するため、アレルゲンが疑われる物質を皮膚に晒さらして反応を観察するパッチテストや針で皮膚に少量のアレルゲンを注入して反応を観察するブリックテストなどを行うことがあります。アトピー性皮膚炎を根本的に治す方法は残念ながらありません。そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、皮膚のバリア機能を改善・維持するためのスキンケア、かゆみや湿疹症状を改善するための薬物療法、そして症状を悪化させる要因を排除することが治療の主体となります。スキンケアは皮膚を清潔にキープして乾燥を防ぐため、保湿剤などを用いて行います。一方、症状を改善させるためには皮膚の炎症やアレルギーを抑えるステロイド薬や免疫抑制剤の塗り薬を使用したり、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬などの塗り薬や飲み薬を使用したります。外用療法ではステロイド外用薬、カルシニューリン阻害外用薬、JAK阻害外用薬、PDE4阻害薬を使い、全身療法には炎症やかゆみを抑える飲み薬(カルシニューリン阻害内服薬、JAK阻害内服薬)、生物学的製剤の注射、紫外線療法(ナローバンドUVB療法など)を行います。
ここでカルシニューリンとは、神経伝達を調整する作用を持ち、脳神経疾患や中枢神経系疾患の発症に影響を及ぼす酵素のこと。カルシニューリンは、体内のカルシウム濃度が上昇することによって活性化し、遺伝子の発現を調節するほかシナプスを使った神経伝達に影響を及ぼす。ただし、どのような影響を及ぼすのか詳細は未だに解明されていない。カルシニューリンの減少・もしくは増加が、統合失調症やダウン症候群、アルツハイマー病といった脳神経疾患や、糖尿病、肥大型心筋症といった中枢神経系疾患の発症に影響を及ぼすことが判明している。例えばマウスを使った実験で、カルシニューリンが作用していないマウスには、統合失調症に似た症状が見られた。この実験により、カルシニューリンが働かないことが統合失調症の発症に結びつくということが明らかになっている。この作用を逆手にとり、カルシニューリンの作用を阻害し、細胞内情報伝達作用を操作することにより、免疫担当細胞の活動を抑制することができる。そのため、一部の免疫抑制剤(タクロリムスやシクロスポリン)は、このカルシニューリンの阻害を目的として作られている。
アトピー性皮膚炎の治療の基本は外用療法(塗り薬)です。医師が薬を処方して塗る量の目安をお伝えし、患者さん主体で治療を行います。皮膚の炎症が抑えられてきたら、徐々に塗る量、塗る回数を減らしていきます。そして、症状を悪化させる要因を排除するには吸水性の高い肌着を身につける、身の回りを整えてダニやホコリなどを極力減らすといった対処が必要です。また、アトピー性皮膚炎は上述した対症療法で症状が改善したとしても再発を繰り返すのが特徴です。そのため、症状が改善した後もその状態をキープするためにステロイド薬の塗り薬の使用を続け、徐々に薬の量を減らしていくのが一般的です。2018年、ステロイド外用剤などの従来の治療法で十分な効果を得られないアトピー性皮膚炎に対し、注射薬である生物学的製剤が登場しました。また、経口JAK阻害剤も使用可能となっています。ステロイド外用剤の副作用の1つに、長期外用に伴う皮膚の菲薄化がありました。そのため、新規外用剤の開発が待たれていました。2020年、ステロイド外用剤とは作用機序がまったく違う外用JAK阻害薬が登場しました。今後も多くの新規薬剤が登場予定です。ただしアトピー性皮膚炎の明確な発症メカニズムは解明されていないため、確実な予防法はありません。しかし、アトピー性皮膚炎はダニ、ホコリ、汗、ストレスなどによって悪化しやすいため、発症した場合はできるだけ皮膚への刺激を避けて規則正しい生活を送ることが大切です。また、日頃から保湿を中心としてスキンケアを行う必要があります。
リアクティブ療法は、症状が出たら薬を塗り、症状が引いたら塗るのをやめるという、従来の治療概念です。滅多に症状が出ない場合にはこの方法で十分ですが、同じ部位または全身のあちこちに頻回に症状を繰り返す患者さんは多くいらっしゃいます。症状を繰り返す理由として、実は薬を塗って症状がおさまったように見えても炎症が残っていることが分かってきたため、近年では後述のプロアクティブ療法という考え方が重視されてきています。
プロアクティブ療法は、症状がおさまった後も頻度を減らしながら薬を塗り続け、症状の出ていない状態をできるだけ長く保つことを目指す、新しい治療概念です。症状を繰り返したり、症状が悪化したりしている場合には、プロアクティブ療法を行うことをおすすめします。
アトピー性皮膚炎の治療の最終目標は“症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持すること”です(日本皮膚科学会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』より)。アトピー性皮膚炎は寛解と増悪を繰り返す病気なので「よくなったり悪くなったりするのは仕方がない」と思う方は多いかもしれません。しかし、プロアクティブ療法をしっかりと行うことで、やがて炎症がおさまり、ほとんど薬を使わず、スキンケアのみで維持できるくらいの状態になる患者さんも数多くいらっしゃいます。患者さんが目指したいゴールは、症状がない状態を保つことだと思います。そのためには、最初は思い切って薬を使い、早くゼロレベルにして、その後は皮膚のよい状態をキープしながら薬の塗布日数を徐々に減らしていくことが大切です。症状がおさまれば、悪循環による悪化因子を減らすことにもつながるので、薬は徐々に少ない量で維持できるようになっていくわけです。薬をできるだけ使いたくないからと、塗ったり止めたりしているうちに悪化してしまう患者さんもよくいらっしゃいますが、薬を適切に使うことが、薬を最小限に抑え、長く快適に過ごすために重要です。プロアクティブ療法を成功させるためのポイントは薬を塗るべき場所を最初に決めること。プロアクティブ療法では、どこに薬を塗るべきか医師が判断し、患者さんが塗る場所を間違えないよう適切に伝えることが課題だと考えています。薬を塗るべき場所は患者さんによって異なります。全身に塗らなければならない患者さんもいますが、全身ではなく、局所だけに症状を繰り返している方も多いです。たとえば肘と膝に症状が出る場合はそこだけというように、特定の場所に薬を塗ることで改善が期待できます。症状がおさまって薬を塗る場所が分からなくなったという患者さんのために、当院では、治療を開始する前に、人体図のイラストを描いて薬を塗るべき場所にマークをつけ、患者さんにお渡ししています。プロアクティブ療法を行う際に注意していただきたいのは、薬を塗る回数をすぐに減らせるわけではないということです。重症の方ほど、急に回数を減らすとまたすぐに症状が出てしまいます。自己判断で薬を減らさず、医師の指示に従いましょう。当院では、TARC検査で症状の再発のないことを予測したうえで、正常値をキープできるように薬の減量を行っています。毎日薬を塗って症状がおさまったら、2日に1回、3日に1回、週に2回、週に1回と徐々に回数を減らし、スキンケアだけで症状が落ち着いている状態を目指しましょう。
漢方と鍼灸
① 季節性で考える 2月頃、梅雨、夏、秋以降
② できる部位で考える 陰面(湿気がたまりやすい)膝裏、肘裏、首のしわ、首全体、髪の生え際、髪の中 陽面(乾燥しやすい)首筋、肘、手首、背中
③ 痒くなるタイミングで考える 突発、自律神経、逍遥熱、ストレス、生理前、熱くなる、食後、外出時
④ 痒みの激しさで考える 自律神経、逍遥熱、真菌、アレルギー反応
⑤ 痒くなる場所で考える 長時間、花粉症、黄砂、PM2.5、光線過敏症
⑥ ステロイドの使用期間、頻度、強度 有無で考える
⑦ 皮膚の乾燥状態で考える 燥 中間 湿
⑧ 皮膚が汚いか 汚くないか
⑨ 肌から考える ウエット オイリー 地黄肌 もち肌 色白 色が濃い
⑩ 痒みの度合い 掻き壊しで皮膚が肥厚
⑪ 大切な養生から考える 掻かない 皮膚を保護・保湿 黄砂・花粉の除去 白砂糖 チョコレート・洋菓子 酸化した油 赤い色素 春先の新芽 灰汁のつよいもの 外来種 唐辛子 お酒 もち米 せんべいの禁止
⑫ 三陰三陽で考える
⑬ 慢性は少陽病か太陰病で考える
⑭ 浸出液の色と量で考える
⑮ 睡眠から考える
⑯ 真菌・菌の有無を考える
⑰ アレルギーの体質改善を考える 免疫の調整
⑱ 便通を考える 便秘 下痢