乳汁分泌不全
赤ちゃんを出産した女性は、2~3日すると、母乳が出始めます。その母乳の出が悪い状態のことを乳汁分泌不全といいます。
生後1週間の赤ちゃんが1回の授乳で必要な母乳の量は、約30ml~といわれています。この量を下回ると、赤ちゃんが授乳後、熟睡しない、1回の哺乳時間が長いなどの症状がでてきます。
乳汁分泌不全の原因としては、乳腺の異常や乳頭の異常、乳房の発育不全、乳汁分泌を促すホルモンの異常などがあげられます。また、乳児の乳汁を吸う力が弱いことや、母親のストレスや過労睡眠不足も、乳汁の分泌が悪くなる原因となります。
乳汁分泌不全の検査方法は、授乳による乳児の体重測定や乳腺炎の検査があります。乳腺炎は外科で触診によるしこりの有無と血液検査による炎症反応が調べられます。乳腺炎がない場合には、授乳後の乳児の体重測定をこまめに行い、規則的に授乳しているにも関わらず体重が減ったり、栄養状態が悪くなっていないか、乳児の健康診断も行われます。
乳汁分泌不全の改善として、まず十分な睡眠と栄養のバランスの取れた食事を取ることが大切です。乳房のマッサージも効果的です。陥没乳頭など乳頭の問題で乳児が上手く乳汁を吸えていない場合は、乳頭を引き伸ばすなどして乳児が吸いやすくなるようにします。ストレスも乳汁分泌不全の原因となります。できるだけ乳児といて楽しくなることを考えるようにします。多くの場合は、母親の熱意と、赤ちゃんの吸う力が発達してくることで改善します。
漢方と鍼灸
乳腺は現代医学でも表皮系の器官で、汗腺と脂腺と同類とされていますが、漢方医学的にも(汗腺と同じく)表位または半表半裏の器官と考えることができます。さらに乳腺と汗腺ともに体表に体液を分泌する点でも同じと考えると、乳汁分泌不足は発汗不足のひとつの変形とも考えることができます。
乳汁分泌不足を漢方医学的に考えると
①乳汁の産生はよく、排出が悪い場合
②乳汁の産生が良くない場合
があります。①の場合は乳汁うっ積による乳房の過緊張が原因で、発表・発散することが大切です。②は体力の虚弱、消耗などによる乳房の低緊張、弛緩などがあり、滋養強壮が必要になります。
乳汁は気血から生じ、その気血は脾胃で作られるという考え方があります。そのため、乳汁分泌不全は
⑴産後のストレスや精神的なものによる気・血のうっ滞
⑵産後の疲労や出血または、脾胃の虚弱による気・血の不足
が考えられます。それぞれ理気剤・駆お血剤や補気剤・補血剤が適応になります。
さらに漢方では、乳汁促進作用のある生薬(蒲公英、王不留行、通草など)が知られています。
乳汁分泌不全には、①発表剤(葛根湯、桂枝加葛根湯など)、②駆お血剤と補血剤(桂枝茯苓丸、芎帰調血飲、四物湯など)、③柴胡剤を主とする理気剤(柴胡桂枝湯、加味逍遥散、四逆散など)、④補養剤(十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯、小建中湯など)、⑤催乳剤(蒲公英湯、通乳湯など)があります。
乳房の状態、血流、疲労、メンタルと自律神経などその方に乳汁分泌不全の原因となっている場所から改善していくよう考えていきます。それぞれの反応穴などから経絡に落とし込んで漢方、食養生、ツボを導き出します。