足腰を丈夫にしたい(フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドローム)
フレイル
フレイルとは、加齢や疾患によって身体的・精神的なさまざまな機能が徐々に衰え、心身のストレスに脆弱になった状態のことです。特に高齢者は、糖尿病や高血圧、骨粗しょう症などの慢性疾患、がんなどさまざまな病気を抱えているケースが多く、心身機能の低下と相まって生活機能が落ちたり、心身の脆弱性が加速されたりする危険性が高いことが知られています。一方で、フレイルは完全に介護が必要な状態ではなく、適切な生活改善や治療などを行っていくことで生活機能が以前の状態に改善する可能性があることが示されています。つまり、フレイルとは、健康な状態と介護が必要な状態との中間地点にある状態のことなのです。65歳以上の高齢者が27%を越える日本において、フレイルの改善や更なる進行の予防は非常に重要と考えられており、要介護状態に陥ることを避けるためにも早期に適切な改善がなされるべき状態として広く認識される必要があります。フレイルを引き起こす原因は、脆くなる領域別に“身体”・“心や認知”・“社会性”の3つに分けられます。身体的な面での原因としては、骨・関節・筋肉など運動機能に関わる器官の衰えが挙げられ、歩行や立ち座りなど日常生活を送るうえで必要な動作に支障をきたしている“ロコモ”と呼ばれる状態、筋肉量が減少する“サルコペニア”と呼ばれる状態などが含まれます。慢性疾患や多剤併用などがこれらを加速させ、運動量の低下や食欲減退から、低栄養となり、筋力の低下を起こす悪循環が知られています。一方、心や認知の面での原因としては加齢に伴う認知機能の低下や抑うつ気分などが挙げられ、家事や買い物などさまざまな場面で適切な行動・判断ができにくくなることなどが問題となります。そして、社会性の面での原因としては、社会的に孤立しがちになることで引きこもりや孤食(1人で食事をすること)などが挙げられます。また、フレイルの特徴は、上で述べた3つの原因が重なることでさらに状態が悪化していくことです。たとえば、身体機能の衰えによって外出が億劫になることで引きこもりがちの生活になり、それが社会性の低下を引き起こします。また、引きこもりがちな生活が続くことでさらに身体機能や認知機能が低下することにもつながり、心身の機能がどんどん衰えていくという負のスパイラルに陥るのです。フレイルは、健康な状態と介護が必要となる状態の中間の状態を指します。年齢のせいと間違われる症状が多く、痩せてきた、握力が低下してきた(ペットボトルの蓋が開けにくい)、横断歩道が青信号の途中からでは渡りにくいなどが、診断基準にのっとった症状です。フレイルにおけるもっとも注意すべき症状は転倒、骨折です。その他、排尿障害、視力低下、活力低下、息切れ、物忘れなどが挙げられます。これらを見過ごしていると、更なる心身機能の低下が生じ、風邪をこじらせやすくなって肺炎を発症したり、転倒しやすくなって骨折したりする可能性が高くなり、最終的には介護が必要な状態に陥る危険性が増すとされています。フレイルは健康な状態と介護が必要な状態の中間地点にある状態のことを指すため、身体的・精神的に明らかな異常は見られないことがほとんどです。そのため、血液検査や画像検査などを行っても異常が見られないことも少なくありません。フレイル状態にあるか否かを判断する指標はさまざまありますが、一般的にはFried氏が提唱した基準が用いられます。具体的には、以下の5つの項目の内3つ以上が該当する場合をフレイルとし、1~2つ該当する場合をフレイルの前段階である“プレフレイル”とします。1体重減少(意図せず一年間に4.5㎏または全体重の5%の減少がある)2疲れやすい(何をするのも面倒だと感じる日が週に3~4日以上ある)3歩行速度の低下4握力の低下5身体活動量の低下です。一方で、早くフレイルの状態に進行した場合は、軽度な脳梗塞、潜在性の心不全、腎機能障害、COPD、 腰椎圧迫骨折などの思わぬ病気が隠れている場合もあります。そのため、症状に応じて画像検査や血液検査などを行う必要があります。フレイルの有効な治療法はなく、フレイル状態であると判断された場合は、更なる心身機能の低下を防ぐためのリハビリテーションや生活改善を行う必要があります。体的には、適正な筋肉量や骨量、そしゃくや嚥下など食事を取ることに関わる機能を維持するために必要な栄養バランスの取れた食事、適度な運動習慣、趣味やボランティアなどの社会参加をうまく取り入れた生活を送ることが大切と考えられています。フレイル状態に至ると適切な対処をしなければ介護が必要な状態に心身の機能が低下していくことになります。そのため、まずフレイルに陥りやすい危険因子を十分に調べ、個人にあった予防方法を実践することです。年齢を重ねたら、心身の機能が低下しないよう食事や運動などの生活習慣に注意し、積極的に人と接するなど社会性を失わないよう注意する必要ことが大切です。また、人は年齢を重ねるごとにさまざまな病気を発症しやすくなります。病気はフレイルの状態をさらに深刻化させる危険がありますので、定期的に健康診断などを受けて健康管理を続けていくことも大切なポイントです。
サルコペニア
サルコペニアとは、筋肉量の減少に伴って筋力や身体機能が低下している状態を指す言葉で、ギリシャ語の“サルコ(sarco)=筋肉)”と“ぺニア(penia)=喪失”を合わせた造語です。一般的にサルコペニアの診断は、骨格筋量、握力、歩行速度の3つをもとに、骨格筋量と身体機能が一定以上低下している場合にサルコペニアと診断されます。サルコペニアになると、特に抗重力筋(広背筋・腹筋・膝伸筋群・臀筋群など)の低下が多くみられることから、立ち上がったり歩いたりするのが困難になります。頻繁につまずく、立ち上がる際に手をつくような場合にはかなり症状が進行していると考えられ、進行するほど生活の質(QOL)の低下を招き、寝たきりになってしまうこともあります。しかし、サルコペニアは筋肉量の減少が病態であるため、十分な栄養摂取や運動によって筋肉量を増やし、筋力を強くすることで進行をある程度、抑えることができます。サルコペニアは、加齢による“一次性サルコペニア”と、活動不足や病気、栄養不良によって生じる“二次性サルコペニア”に分けられます。一次性サルコペニアは筋肉量の減少は誰にでも起こるもので、一般的には25~30歳頃から始まり、年齢を重ねるにつれて徐々に進行していきます。このような加齢によるサルコペニアの背景には、運動ニューロンや筋衛星細胞の減少、成長ホルモンやテストステロンの分泌低下、炎症性サイトカインの増加、加齢に伴う食欲不振による体重減少などが関係していると考えられています。二次性サルコペニアは活動が不足すると骨格筋量が減少し、座る姿勢や寝る姿勢が長いと特に下半身の筋力が低下します。また、臓器不全や炎症性疾患、内分泌疾患、がんなどの病気に付随してサルコペニアが起こるほか、病気によって安静を強いられ、不活動になることもサルコペニアの原因です。栄養においては、エネルギー、総タンパク質、必須アミノ酸のうちBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)の摂取不足がサルコペニアの誘発原因になるといわれています。筋肉量が減少して筋力が低下することで、立ち上がりや歩くのが困難になる、頻繁につまずく、体が思うように動かないなどの症状が現れます。このような症状によってQOLの低下につながるほか、さらなる不活動を招き、寝たきりになってしまうこともあります。転倒や骨折の危険性が高まる原因にもなります。また、筋肉量が減少すると血糖値を調整する力が低下して血糖値が変動しやすくなります。物忘れや、免疫力の低下、嚥下機能低下、呼吸機能低下につながるという報告もあります。 サルコペニアでは、一般的に骨格筋量、握力、歩行速度の3つをもとに診断します。具体的には骨格筋量が一定以上低下していて、握力が男性で28kg未満、女性で18kg未満である、または通常歩行速度が1m/秒未満である場合にサルコペニアと診断されます。
歩行速度の代わりに、5回椅子立ち上がりテストや、SPPB(バランス、歩行テスト、5回椅子立ち上がりテストからなる身体能力テスト)が行われることもあります。骨格筋量の測定には、DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)やBIA法(生体電気インピーダンス法)が選択され、X線や微弱な電気を用いて測定します。サルコペニアの進行を防ぐためには運動と食事が有効であるため、サルコペニアと診断されたら運動指導と食事指導が行われ、患者自身で取り組むことになります。筋肉量を増やして筋力を強くするためには、レジスタンス運動(筋力トレーニング)がもっとも効果的だといわれています。
レジスタンス運動とは筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動のことです。スクワットや腕立て伏せ・ダンベル体操などの標的とする筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う運動をレジスタンス運動と言います。10-15回程度の回数を反復し、それを1-3セット無理のない範囲で行うことが勧められます。レジスタンス運動にはダンベルやマシンなどの器具を用いて行う方法と、スクワットや腕立て伏せのように自体重を利用して行う方法があります。自体重を用いて行う方法は手軽に行えることから、筋力向上の指導プログラムに広く活用することができます。しかし負荷の大きさを調節しにくいという欠点もあります。例えばスクワットならしゃがみ込む深さを調節する、机などに手をついて行う、何かを持って行うなどの工夫で負荷の調節をすると良いでしょう。筋肉には疲労からの回復の時間が必要です。レジスタンス運動は標的の筋肉に負荷を集中する運動ですから、その筋肉に十分な回復期間としてトレーニング間隔をあける必要があります。毎日行うのではなく、2-3日に一回程度、週あたり2-3回行うくらいの運動頻度が推奨されます。無理のない範囲で「継続的」に行うようにしてください。また、ウォーキングや有酸素運動は、サルコペニアの予防には有効です。サルコペニアの治療には、インターバル速歩など速く歩くことがポイントです。
インターバル速歩のやり方は、視線は約25m先を見て背筋を伸ばした姿勢を保ちます。足はできるだけ大股を意識して踏み出し、踵から着地します。初めは1.2.3と数えて3歩目を大きく踏み出すようにします。肘は90度に曲げて腕を前後に大きく振ります。速歩のスピードは「ややきつい」と感じる程度で行います。3分間の「速歩(さっさか歩き)と3分間のゆっくり歩きを1セットとし、1日5セット以上、週4日以上を目標にします。1日の早歩きの合計が15分になればよいので、朝・昼・夜とこまめに分けて実施しても大丈夫です。1週間で早歩きを60分以上、5か月間続けることを目標とするため、平日に時間がとれない場合は土曜日に早歩き30分、日曜日に早歩き30分を行ってもよいとされます。これらを組み合わせて運動を行い、運動後30分~1時間以内にタンパク質(アミノ酸)を摂取することでより効果的に筋力量を増やすことができます。次にインターバル速歩を行う際の注意点を示します。「さっさか歩き(早歩き)」の時は転び易いため、足元に充分注意し、無理をせずに、足がもつれない程度の速度で実施して下さい。心臓や肺の病気がある人や、脳卒中、パーキンソン病、水頭症などの診断を受けたことがある人は、インターバルトレーニングを実施しても良いか、かかりつけ医と相談してください。インターバル速歩を始める前後にストレッチを行い、怪我や疲労を予防します。とくに下半身のストレッチをしっかり行い、筋肉を柔らかくします。午後3時から午後6時頃は筋肉が柔らかくなっていて肉離れなどの怪我が起こりくい時間とされています。前屈みにならないように胸を張った姿勢を保ち、正しいフォームで歩くようにします。服装は軽い運動ができる程度のもの、シューズは底がやわらかく、曲がりやすいもので、踵にクッション性があるものを選びましょう。インターバル速歩では次の効果が得られます。体力の向上(筋力の向上・持久力の向上):筋力が10%、持久力が最大20%向上)、生活習慣病の改善:低体力の群で高血圧、高血糖、肥満などの生活習慣病指標※1の点数の値が20%改善)、気分障害の改善:うつ指標の値が50%改善)、睡眠の質の改善:睡眠効率(睡眠時間/寝床に入っている時間)が改善)、認知機能の改善:浦上式認知機能テストをPC用にアレンジしたプログラムによる認知機能測定の値が4%向上)。とくに軽度認知障害(MCI)の人たちでは認知機能測定の値が34%改善、関節痛の改善:膝関節痛の症状が、50%の人が良くなったと回答、骨粗しょう症の改善:骨密度が第2-4腰椎で0.9%、大腿骨頭部で1.0%増加、熱中症の予防:インターバル速歩後に糖質・乳タンパクを摂取すると、体温上昇に対する皮膚血管の拡張度、発汗速度が3倍亢進。このようにただ1万歩歩くより効率的に鍛えることができます。
食事においては筋肉量の増加や老化の予防に関わる、タンパク質やBCAAなどの栄養素を多く含む食品を積極的に食べることが大切です。また、ビタミンDとカルシウムも重要な栄養素で、転倒や骨折予防につながります。タンパク質においては肉類や魚介類、卵、大豆製品、乳製品など、BCAAは鶏肉やまぐろの赤身、大豆製品、牛乳などに多く含まれています。このような栄養素を意識しながら、主食、主菜、副菜をそろえたバランスのよい食事を心がけるようにしましょう。
ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(以下ロコモ)とは、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念であり、年齢を重ねることによって筋力が低下したり、関節や脊椎などの病気を発症したりすることで運動器の機能が低下し、立ったり、歩いたりといった移動機能が低下した状態を指します。ロコモ自体は病気ではありませんが、高齢化が進む日本ではロコモから寝たきりや要介護への移行を予防することに力が注がれるようになっています。また、ロコモに該当する高齢者は、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を併発しているケースが多いことが分かっています。ロコモによる運動不足が生活習慣病を悪化させるケースもあれば、重度な生活習慣病に起因する身体活動の低下がロコモを悪化させるなど、互いに影響しあって全身の機能低下を引き起こしていることも少なくありません。そのため、ロコモはできるだけ早い段階で発見し、適切なリハビリテーションや治療を行うことが“健康寿命”の延伸につながると考えられています。コモは、移動機能が低下した状態にあることを指します。その原因は大きく分けて次の2つと考えられています。関節、骨、筋肉など運動器の病気で変形性関節症、骨粗しょう症、脊柱管狭窄症、関節リウマチなど関節や骨に異常を引き起こす病気は年齢を重ねるごとに発症率が上昇します。これらの病気は痛みや腫れが生じるだけでなく、骨折や骨の変形などを引き起こし、その結果、正常な関節運動ができなくなることで運動機能の低下が生じるとされています。もう一つは筋力やバランス力など運動機能の低下や運動器に起こる痛みで、正常な身体活動を行うための筋力やバランス力は加齢に伴って低下していき、それが運動機能の低下を引き起こすこともあります。また、筋力やバランス力の低下は転倒など思わぬけがをしやすくなり、それが原因で運動不足となることがさらにロコモを悪化させるケースも少なくありません。関節などに起こる痛みも運動不足の原因になります。運動器の病気がある場合は、その病気による症状が出現します。関節の病気では痛み・腫れ・変形を伴いますし、脊髄や末梢神経の病気では、痛み・しびれ・筋力の低下を伴います。運動器の病気があっても、骨粗しょう症やサルコペニア(筋肉が減弱する疾患)では症状を伴わない場合もあるので注意が必要です。移動機能が低下することで身体活動量が低下し、肥満などの生活習慣病になりやすいこと、認知機能が低下しやすくなることも問題となります。ロコモかどうかの判定は3つのテストからなるロコモ度テストで行います。3つのテストは、どれくらいの高さの台から立ち上がれるかを測る“立ち上がりテスト”、大股で歩いた距離を身長で割る“2ステップテスト”、日常生活や身体機能に関する25個の質問票に答える“ロコモ25”からなっています。これら3つのテストの結果によってロコモでないか、ロコモが始まっている段階のロコモ度1か、ロコモが進行している段階のロコモ度2か、ロコモがさらに進行して社会生活に支障をきたし自立できなくなるリスクが非常に高まっている段階のロコモ度3に判定されます。ロコモであると判定された場合、筋力やバランス力など運動器の機能低下があれば筋力やバランス力のトレーニングが必要です。また運動器の病気があれば、治療が必要です。特にロコモ度3と判定された場合は何らかの運動器疾患があり、その治療が必要な場合があります。また、ロコモは肥満などの生活習慣病を併発しやすく、互いに影響しあって悪化するという負のスパイラルに陥るケースもめずらしくありません。ロコモに至った高齢者は、単に運動機能の維持・向上に力を入れるだけではなく、生活習慣病の予防や治療を行っていくことも大切です。ロコモが進行すると寝たきりや要介護に至る可能性が高くなります。また、高齢者になる前でもロコモが始まっている場合があり、健康寿命を延ばすためにはロコモかどうかを調べて、日ごろから適度な運動をして骨や筋肉、関節の機能を維持すること、筋肉や骨をつくるために栄養バランスのよい食事を心がけていくことが大切です。さらに、ロコモになっていない場合でもロコモ度テストの性・年代別基準値と比べることで、自分の運動器の状態に気づき、運動器に衰えがあれば生活を変えるきっかけとすることができます。
漢方と鍼灸
足腰、骨、脳、身体を温める、耳、膀胱、保守的な感情、髪、生殖能力を含めて腎(六味丸関連)と言います。腎虚はそれらが衰えること。筋肉の衰えは肝血虚(四物湯関連)と言います。筋肉の運動も血が潤滑剤の働きをしています。補気補血が基本です。補血は腎にも肝にも必要。補気は生きる力です。つらい箇所、基礎疾患の反応穴、腎、肝の反応穴から最適な漢方、食養生やサプリ、ツボを選択しお伝えいたします。