睡眠障害
昼間は活動して夜間は眠るということができなくなり、日常生活に影響が出ている状態の総称です。睡眠障害には、不眠症や睡眠関連呼吸障害、中枢性過眠症、概日リズム睡眠・覚醒障害、睡眠時随伴症などが含まれます。日本人では約5人に1人が睡眠に関して悩んでいるといわれており、女性のほうが多いとされています。中でも不眠症がもっとも多いといわれています。原因は種類によって異なりますが、不眠症の多くは加齢が原因になるほか、カフェインの摂取、寝る前の飲酒や喫煙などの生活習慣が影響する場合もあります。睡眠障害の治療は種類によって異なり、薬物療法や人工呼吸器の使用、生活習慣の指導などさまざまです。睡眠障害は大まかに6つの種類に分けることができます。①不眠症……眠れないことで日常生活に支障が出る②睡眠関連呼吸障害……眠っている間に呼吸に異常が出る③睡眠関連運動障害……眠っている間やその前後で体の一部が勝手に動いたり(付随運動)、異常な感覚が出たりする④概日リズム睡眠-覚醒障害……体内時計のはたらきがうまくいかなくなることで、望ましいタイミングで眠ったり起きたりできなくなる⑤中枢性過眠症……夜間に十分に眠ったのにもかかわらず、昼間に眠くなり居眠りをしてしまう⑥睡眠時付随症……眠っているのにもかかわらず、異常な行動をする
睡眠障害の原因は多岐にわたり、生活リズムの乱れやストレス、睡眠に好ましくない寝室環境、睡眠前のカフェイン摂取や喫煙などの生活面に原因がある場合も多いですが、何らか病気によって睡眠障害が引き起こされることもあります。不眠症の原因には、①精神疾患:不安症(不安障害)、うつ病、統合失調症など②身体疾患:呼吸器疾患(咳や発作)、高血圧、心臓病(胸苦しさ)、腎臓病、糖尿病、前立腺肥大症(頻尿)、皮膚病やアレルギー疾患(かゆみ)、関節リウマチ(痛み)、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群など③治療薬:降圧剤、甲状腺製剤、抗がん剤など④睡眠関連呼吸障害:肥満や扁桃や舌が大きい⑤睡眠関連運動障害:鉄不足をはじめ、腎不全の方や人工透析中の方、妊娠中の方に合併することが多いといわれています。⑥概日リズム睡眠-覚醒障害:体内時計と外の時間との周期のズレが生じることが原因です。これは主に光が関係するとされ、体内時計を早めるのは朝の光、逆に遅くさせるのは夕方の光だといわれています。このほかにも、食事や運動、仕事なども影響して体内時計にズレが生じるとされています。⑦中枢性過眠症:中枢神経のはたらきに異常が生じることが原因です。たとえば、中枢性過眠症の1つであるナルコレプシーは覚醒状態を維持するのに必要なオレキシンという神経ペプチドを作り出す細胞の変性・脱落が原因と考えられています。⑧睡眠時随伴症:心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、パーキンソン病やレビー小体病、多系統萎縮症などの中枢神経疾患が関係する場合や、睡眠薬や抗うつ薬の副作用としてみられる場合もあります。睡眠障害は種類によって症状が異なります。以下では代表的な睡眠障害の症状を説明します。不眠症では、寝つきが悪い(入眠障害)、途中で何度も目覚める(中途覚醒)、早く目覚めてしまう(早朝覚醒)、熟睡感が得られない(熟眠障害)がみられ、通常はこれらの症状がいくつか合わさって起こります。
また、不眠の状態が続くと、体のだるさ、頭重、めまい、食欲不振、意欲や集中力の低下、抑うつなど、さまざまな不調が日中に現れるようになります。睡眠関連呼吸障害の多くはいびきをかくことで知られていますが、自覚症状に乏しいことが特徴です。そのほかにも不眠や起きた時の頭痛、昼間の眠気などの症状があります。また、高血圧や脳卒中、狭心症などの循環器系の病気を合併するリスクが高まることが分かっています。睡眠中に勝手に手足が動いたり、睡眠前など安静にしている際に手足がムズムズしたり、痛い、かゆいといった感覚があり手足を動かしたいという衝動にかられることが特徴です。このような症状によって十分な睡眠が取れず、不眠や昼間の過眠が現れます。このほか、歯ぎしりや、こむら返り(ふくらはぎがつること)などの症状も含まれます。体内時計のズレによって、望ましい時間帯に睡眠し、起床することができなくなります。通常の時刻に合わせて無理に起床すると、眠気や頭痛、倦怠感や食欲不振などが現れることもあります。過剰な眠気によって集中力や判断力が低下し、勉強や仕事の能率が落ちるほか、居眠り運転事故、転落、転倒などの事故につながりやすくなります。悪夢、寝言、途中で起きて無意識の状態で歩き回る(睡眠時遊行症)、激しい叫び声をあげたりして飛び起きる(夜驚症)、睡眠中に夢体験と同様の行動を取る(レム睡眠行動障害)、おねしょ(夜尿症)、金縛り(睡眠麻痺)などによって睡眠が妨げられたり、睡眠の質が低下したりします。睡眠障害の診断は、睡眠の状態や生活習慣などについての詳細な問診が中心となります。必要に応じて睡眠日誌を書いてもらったり、アクチグラフという時計型の加速度センサーをつけたりして、睡眠の状態を把握します。睡眠関連呼吸障害では、簡易型の呼吸のモニターを用いてスクリーニング検査を行います。詳しく調べるために終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)や、反復睡眠潜時測定検査(MSLT検査)などが行われることもあります。背景に身体疾患や精神疾患があると考えられる場合には、その病気に対する検査も行われます。不眠症では睡眠薬に加えて精神安定剤や抗うつ薬、過眠症には眠気を覚ます精神刺激薬、睡眠時随伴症に対してレム睡眠を減らす薬やレム睡眠中の筋肉の緊張を和らげる薬が用いられることもあります。背景に病気がある場合にはその病気に対する治療も必要です。睡眠時無呼吸症候群では持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)、マウスピース療法、手術などが行われる場合があります。特に不眠症と概日リズム睡眠-覚醒障害は生活習慣との関連が強いため、以下のような生活上の工夫だけでも解消することがあります。就寝・起床時間を一定にし、起床後に太陽の光を浴びる、寝る前にリラックスできる時間を作る、寝る前のパソコン・スマートフォンの使用を控える、寝る前のカフェイン、たばこを控える、お酒は少量にして寝る3時間前に終える、適度に運動をする、ストレスをためないようにする、眠りやすい快適な寝室にする などです。
過眠症においても規則正しい生活を送り、夜間に十分な睡眠を取ることが大切です。睡眠障害の背景に病気があることも珍しくなく、原因疾患の中には生活習慣が深く関与しているものもあるため、生活習慣を改善することで睡眠障害だけでなく、さまざまな病気の予防にもつながります。原因疾患と関わりが深い生活習慣として、乱れた食生活(食べすぎ・偏った食事・過度の飲酒)、不規則な生活、肥満、運動不足、ストレス、喫煙などが挙げられます。原因疾患の発症予防のためにも生活習慣の見直しを図りましょう。