基礎体温から見る漢方と養生
漢方理論の①気虚、②血虚、③腎虚、④気滞、⑤お血、⑥熱証の6つの体質と基礎体温には深い関係があります。体質チェックしてみませんか。
①気虚タイプ(疲れやすく、胃腸が弱い)
気虚はエネルギー不足で身体の機能が低下した状態です。疲れやすい、元気がない、気力がない、息切れや動悸がする、ちょっと動くと汗をかく、風邪をひきやすく治りにくいといった特徴があります。また、食が細く、食欲不振、食べたいと思ってもあまり食べられない、軟便、下痢をしやすいといった胃腸の弱さも気虚の体質をあらわします。見た目は色白でやせ型か、ぽっちゃりとした水太りで汗かきの方が多いです。病院では黄体機能不全といわれることもありますが、特に問題なしといわれることも多いです。
◎気虚の基礎体温
気虚の女性は、高温期が短くなる場合、高温期の基礎体温が低くなる場合と、高温期の途中で基礎体温が下がる場合があります。また、低温期の基礎体温が低くなったり、低温期が短くなったりする方もいます。
◎気虚に用いる代表的な漢方薬
気虚の体質改善には、体を元気にするような漢方薬や、胃腸の働きを高める漢方薬を用いることが基本になります。
◎気虚の方の体質チェック
◎気虚の養生法
気虚はエネルギー不足で、体の機能が低下した状態です。オーバーワークや、食べ物から「気」を作り出す「脾」の機能(胃腸の働きに近い機能)が弱まっていること、汗のかきすぎなどが原因の事が多いです。
そのため、やりすぎに気をつけて適度に運動する、適度に休息をとる、夜更かしをせず早寝早起きを心がけて十分な睡眠をとる、といったエネルギーを消耗しないで体力を補う習慣がおすすめです。
食事に関しては、気を作り出す「脾」の働きを高めることが基本です。「脾」の働きを高める食べ物は、噛むと甘くなる食べ物(穀物、イモ類)です。穀物を中心にバランスよく食べるようにしてください。穀物が甘く感じるまで、よく噛んで食べることがポイントです。そして、食べすぎない事も大切です。油っこいものや冷たいもの、生ものの食べすぎは「脾」の働きを低下させるので、できるだけ控えてください。
②血虚タイプ(女性ホルモン不足で貧血)
血虚は、女性ホルモン不足と貧血が混ざったような状態です。 動悸、息切れ、疲れやすい、立ちくらみなどの貧血状態や、ドライアイ、筋肉がつりやすい、色が広く、髪の毛に白髪が混ざる、皮膚がカサカサしている、といった症状や特徴があらわれやすいです。
生理の状態については、生理不順(次の生理がくるまで間が空)、経血の量が少ない、月経周期が短い、生理痛、不正出血、更年期障害のような症状などがあげられます。病院で黄体機能不全や貧血といわれる方もいますが、とくに病名がつかないことも多いです。
◎血虚の基礎体温
気虚の体質改善には、体を元気にするような漢方薬や、胃腸の働きを高める漢方薬を用いることが基本になります。
◎血虚に用いる代表的な漢方薬
血虚は漢方的には血が不足した状態ですので、血を補う漢方薬を用います。
◎血虚の方の体質チェック
◎血虚の養生法
血虚は、おもに女性ホルモンの不足や働きの低下、貧血、栄養不足などをあらわしています。血虚は食養生が中心になりますので、毎日の食事が大切です。納豆や豆腐、味噌など、昔から日本人が食べてきた大豆製品をとることが効果的で安全です。また、鶏卵もよいです。貧血がある場合は、赤身のお肉やレバー、ハツ(心臓)などの鉄分を含む食べ物、赤身の魚(マグロ、カツオ)、プルーン、干しブドウなどがおすすめです。
③腎虚タイプ(加齢に伴って生じる機能低下や血虚)
腎虚は、加齢に伴って体の機能が低下した状態です。具体的には、老化に伴う症状思い浮かべてみてもらうとわかりやすいです。生殖能力の低下、耳鳴り、眼が見えにくくなる、歯がもろくなる、記憶力の低下、足腰が弱くなる、骨粗しょう症、病気にかかりやすくなる、夜間頻尿などが一般的な腎虚の状態です。
30~40代の女性にはここまでの症状があらわれることはほとんどありません。実際には経血の量が減る、月経周期が短くなる、生理が不定期になる(1周期飛んでしまうなど)、早発閉経、卵胞刺激ホルモン(FSH)の値の上昇、抗ミュラー管ホルモン(AMH)の減少、卵胞期短縮症、更年期障害などを目安にされるとよいと思います。
◎腎虚の基礎体温
不妊治療に関しては、腎虚は血虚の延長線上にあると考えると理解しやすいと思います。そのため、基礎体温は血虚に似ており、高温期が短く、高温期の基礎体温が低くなる、または高温期が不安定で途中で下がる形になります。低温期が短くなる場合、基礎体温が全体的に下がってくる場合がある事が、血虚と異なる点です。
◎腎虚に用いる代表的な漢方薬
腎虚は加齢に伴う症状があるため、プラセンタ(馬や豚の胎盤から抽出したエキス)や、鹿茸と呼ばれる鹿の角など、腎を補う作用の強い動物生薬を選んだ漢方薬を用いることが多いです。
◎腎虚の方の体質チェック
◎腎虚の養生法
漢方では、老化にともなう体の機能低下を腎虚といいます。腎虚の方は、よく噛んで食べる、ゆっくりでもいいので毎日歩く(適度な運動をする)、適度に休息をとるといったことがおすすめです。「バランスのとれた食事を摂る」「できるだけ鮮度の良い物を食べる」という食養生が大切になります。カップラーメンなどのインスタント食品や揚げ物、時間が経った(酸化した)総菜などは極力控えてください。
④気滞
気滞は気(エネルギー)のめぐっていない状態です。多くの場合、そのめぐりの悪さが喉のつまりや違和感という症状として出てきます。また、気滞が強くなると、過度なストレスにさらされた状態や自律神経が乱れた状態の事を示します。それがイライラや情緒不安定、気分のムラといった状態で現れることがあります。
気滞の女性は月経周期がバラバラで早くなったり、遅くなったりします。ひどければ無月経になることもあります。生理前になると体調がおかしくなる人や、生理前に乳房が張りやすい人もいます。 産婦人科ではとくに問題がないと言われることが多いですが、なかには高プロラクチン血症の人もいます。
◎気滞の基礎体温
気滞が不妊症に影響しているときは、基礎体温がギザギザした形になります
◎気滞に用いる代表的な漢方薬
気滞の体質改善には、気のめぐりを良くしたり、滞りを改善する漢方薬が使われます。
◎気滞の方の体質チェック
⑤お血タイプ(血液が滞り、女性ホルモンが乱れる)
お血は血液が滞り、血流が悪くなった状態です。
頭痛、肩こり、体のどこかに持続的で固定的な痛みがある、手足は冷えるのに頭がのぼせる、物忘れがひどい、痔、冷え性(足先の冷え)などの自覚症状があります。舌をみると、紫色をしていたり、黒い点々があったり、舌の裏の静脈が浮き上がっていたりします。高血圧や動脈硬化、心臓疾患や脳血流疾患などを起こしたことがある人にも多いようです。
月経に関しては、生理痛がひどい、血の塊が出る、経血がどす黒い、経血の量が多い、生理不順(生理が遅れがち)、無月経などがあります。 病院で子宮筋腫や子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断された方に多いです。
◎お血の基礎体温
お血の基礎体温には大きく2パターンあり、高温期が長く、高温期の基礎体温が高い(低温期と高温期の温度差が大きくなる)ケースと、低温期が短く低温期の基礎体温が高くなるケースがあります。
◎お血に用いる代表的な漢方薬
お血を改善し、血流を促す漢方薬が使われます。
◎お血の方の体質チェック
◎お血の養生法
お血は血液が滞り、血の流れが悪くなった状態です。お血の方にとっては、ウオーキングは大事な養生です。できれば1日に20分以上、何も持たず休まず歩くことを週4回以上続けることが血行改善のためにおすすめです。また、湯船につかるという習慣も血行改善になります。食事では、基本的に油ものを控え、小松菜やほうれん草など緑の濃い葉物野菜、海藻類を積極的に摂ることは大切です。ただし、甲状腺機能に問題がある方は、海藻類の摂取はなるべく避けてください。
⑥熱証タイプ(体が熱をもち興奮しやすい)
熱証は、その名の通り体に熱がある状態です。
熱証は、体の炎症、体の機能や新陳代謝の亢進、感染症にともなう発熱や精神的な興奮なども含む概念です。症状としては、喉が渇く、のぼせる、便がかたくなる、便秘になる、尿の色が黄色くなる、怒りっぽい、イライラしやすい、赤ら顔、火照りなどがあります。女性の場合は、熱が血に入ることで不正出血といった症状があらわれます。
ただし、熱証タイプの不妊の方の中には、自覚症状がまったくない方も多くいます。病院でもとくに問題がないと言われることが多いです。
◎熱証の基礎体温
熱証の基礎体温は、高温期が長く、高温期の基礎体温が高くなる、または低温期が短く、低温期の基礎体温が高くなるなどがあります。
実際には、不妊治療のために長期にわたってホルモン剤を使用することで基礎体温が上がっている場合や、もともと平熱が高いためこのような基礎体温になるケースもあるので治療する必要のない場合も多いです。
◎熱証に用いる代表的な漢方薬
熱証の体質改善には、体を冷やす作用がある漢方薬を用います。黄連や黄ゴンの入る漢方薬です。
◎熱証の方の体質チェック
◎熱証の方の養生法
熱証は体に熱が過剰にある状態です。興奮しやすい人はとくに、ゆっくり食事をとる、ゆっくりお風呂に入るなど、ゆったりといた生活を送ることが養生になります。
熱証は体に熱がある状態ですから、緑の濃い葉物野菜や夏野菜などの体を冷やす食べ物や、緑茶などの苦みのある飲みものを多めにとり、体の熱を増やすものを控えることがおすすめです。油っこい物や辛い物、お酒の飲みすぎは、体の熱がこもりやすくなるので控えてください。
養生法をコツコツと続けて、毎日の習慣になっていくと体調も自然を良くなっていくことが多いようです。