脊椎すべり症
背骨(脊柱)は、椎骨と呼ばれる骨がいくつも連なって構成されています。椎骨には椎孔という穴があいていますが、椎骨がいくつも縦に連なることにより、椎孔も連なり、一本のトンネルのような脊柱管と呼ばれる空間が形成されます。脊柱管の中には神経(脊髄、馬尾)が通っています。腰椎すべり症とは、腰の部分で椎骨が正常な位置からずれた状態をいいますが、椎骨がずれる(すべる)ことにより脊柱管が狭くなります。それにより、脊柱管の中にある神経組織が圧迫され、さまざまな症状が現れます(主な症状は脊柱管狭窄症と同じです)。具体的には、長い距離を歩いたり、長時間立っていたりすると腰から足にかけて痛みを生じるようになります。また、足のしびれや麻痺まひ、排尿障害を生じることもあります。
腰椎すべり症は大別して、腰椎変性すべり症と腰椎分離すべり症の2種類に分けられます。このうち頻度が高いのは変性すべり症です。変性すべり症は加齢に伴い生じ、中年以降の女性に多い傾向があります。腰椎変性すべり症・腰椎分離すべり症ともに、画像上ずれ(すべり)を認めても、症状がない場合には積極的な治療は行いません。痛みがある場合は、まず、理学療法、薬物療法、装具療法、ブロック注射などを行います。これらの治療で思わしい結果が得られない場合、手術を選択する形が一般的です。脊柱管の中には重要な神経である脊髄が入っています。腰のあたりになると脊髄はバラバラにほどけた形態をとるようになり、見た目の様相が馬の尻尾のような形態をしていることから馬尾神経と呼ばれます。腰椎すべり症では椎骨がずれることによって脊柱管が狭くなり、馬尾神経や神経根などが圧迫されます。腰椎すべり症は大きく分けて、腰椎変性すべり症と腰椎分離すべり症の2種類にわけられますが、先天的な要因から発症する形成不全性すべり症もあります。
腰椎変性すべり症は加齢に伴って椎間板(腰椎の間にあるクッションとなる組織)や椎間関節が変性し、腰椎が正常な位置からずれてしまいます。特に第4腰椎と第5腰椎の間に生じることが多いといわれています。腰椎分離すべり症は腰椎分離のための力学的脆弱性と長期間かけて腰椎の変性が進むことによって起こります。第5腰椎の分離症が多く、その場合、第5腰椎とその下の仙椎の間ですべりが生じます。形成不全性すべり症は生まれつき骨の形成の状態が悪いために起こるすべり症です。腰椎の分離も伴っていることが多く、高度なすべりに進行する可能性があります。一定の距離を歩くと足にしびれや痛みが生じ、休む(しゃがむ・座るなど)ことにより再び歩けるようになる間欠跛行が代表的な症状です。似たような症状を呈する病気に脊柱管狭窄症や下肢の血流障害(閉塞性動脈硬化症など)があります。そのほかにも、下肢のしびれや麻痺、尿の出が悪くなるなどの症状がでることがあります。腰椎すべり症では、レントゲン写真やMRIなどの画像検査を行います。レントゲン写真では腰椎のずれ具合を確認することができます。MRIでは神経の圧迫具合を確認できます。形成不全性すべり症では、仙骨と呼ばれる背骨の一番下の骨(背骨と骨盤を連結する)の形が正常と異なります。仙骨の上縁が丸い形をしており、すべりが進行しやすい状態となっています。一般的な腰椎すべり症(腰椎変性すべり症や腰椎分離すべり症)では、最初は間欠跛行や疼痛、しびれが主な症状で、運動麻痺をみとめることは多くありません。そのような場合、まず、理学療法、薬物療法、装具療法などによる治療を開始します。こうした治療が奏効しない場合にはブロック注射を行います。保存療法で十分な効果が得られない場合、筋力低下がある場合、形成不全性すべり症などでは手術的な治療が行われます。
初期治療としては、腰痛に対して消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などを処方し、症状の軽減を図ります。脊柱管狭窄によって馬尾神経が圧迫されて生じる下肢痛やしびれなどの症状に対しては、馬尾神経の血流を促進する末梢循環改善薬や神経障害性疼痛治療薬が処方されます。その他の保存療法として温熱療法や牽引けんいん療法、また痛みに対して神経ブロック療法を行うことがあります。
・温熱療法:腰部の筋肉を温め、さまざまな症状の改善を図る治療です。
・牽引療法:縦方向に腰部を引っ張る医療機器で腰部を伸ばし、さまざまな症状の改善を図る治療法です。
・神経ブロック療法:原因となっている神経や部位に薬剤(局所麻酔薬)を投与し、痛みの軽減を図ります。長期間にわたり疼痛とうつうが消失することもあります。
薬物療法、理学療法(腰椎の牽引・温熱療法)、神経ブロック療法などを行っても症状が改善しない場合には、手術療法が選択できます。
具体的な手術療法は、腰椎の「ずれ」の程度や「動き」(不安定性)の程度を考慮し、決定します。神経の圧迫を解放する方法(除圧術)と、除圧に追加してずれ(すべり)を矯正し、腰椎を固定する方法(固定術)があります。手術介入のタイミングや手術方法については、症状や生活への影響を考慮し、慎重に検討する必要があります。