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めまい

 耳の奥にある内耳の前庭迷路、そこから脳へとのびる前庭神経、脳内の前庭神経核・前庭小脳、あるいは神経連絡路の障害によって起こるのが、回転性めまいです。「天井や壁、または自分自身がグルグル回っている感覚」、「上下左右に揺れている感覚」、極端な場合には「自分が立っているのか寝ているのかすらわからないような感覚」といったように表現されるめまいです。原因疾患としては、異常脳幹・小脳出血または梗塞、脳腫瘍、メニエール病、良性発作性頭位めまい症などが挙げられます。浮動性めまいは、前頭葉の障害、下肢末梢神経障害、睡眠障害・不安・抑うつ気分などによって起こります。「足下がふわふわする感覚」、「雲の上を歩いているような足が地に着かない感覚」、「頭がボーとしてふらつく感覚」といったように表現されるめまいです。原因疾患としては、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、脳腫瘍、メニエール病、前庭神経炎などが挙げられます。回転性めまいと浮動性めまいの混合型もあるようです。立ち眩みのように目の前が真っ暗になるめまい症状は、脳全体とりわけ脳幹部を灌流する血流が減少するために生じる脳虚血(脳貧血)です。脳循環不全を引き起こすような頭蓋内外動脈狭窄、低血圧、起立性調節障害、血管迷走神経反射、徐脈性不整脈、大動脈弁狭窄症、貧血などに起因します。「急に立ち上がったり、長時間同じ姿勢を取った後に生じる眼前暗黒感」、「目の前がスッーと暗くなるあるいは白くなると同時に意識が遠のくような感覚」といったように表現されます。原因疾患としては、低血圧症、起立性調整障害、心疾患、血管迷走神経反射、脱水、高度の貧血などが挙げられます。また女性特有のPMS(月経前症候群)や月経困難症、更年期障害の症状として起こるめまいもあります。特に更年期の女性は、閉経期前後の約10年間に卵胞ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少し、自律神経のバランスが乱れます。それに加えて感覚器官の加齢変化によって、めまいや耳鳴りなどの症状が出やすくなります。更年期のめまいの原因は、動脈硬化、高血圧、メニエール病、突発性難聴など重篤な病気が隠れている場合があります。整形外科的には、頚椎の異常が関係していることもあります。バレリュー症候群などが関与している場合があるので問診では多岐にわたって聞く必要がありますね。

 めまいの60%以上はメニエール病、良性発作性頭位めまい症です。難聴、耳鳴りなどを伴うめまいはメニエール病、頭を動かした時に回転性のめまいが短時間起こるものは、良性発作性頭位めまいが多いようです。めまいの30%程度は、ふわふわする浮動性のめまいや慢性的なめまいが3か月以上続くPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)。PPPDは、急なめまいを発症後、急性期症状は改善したにも関わらず、雲の上を歩いているような状態が、3ヵ月以上にわたってほぼ毎日みられる病気です。一般的に3か月以上症状が持続するめまいを慢性めまいといい、その原因としてPPPDが最も多く、約40%を占めると言われています。耳の病気によるめまい(器質的前庭疾患)やうつ病などの精神疾患とは独立した機能性疾患(臓器には何も異常は無いにもかかわらず自覚症状だけがある病態)と考えられています。慢性めまいの原因として、2017年に定義された新しい疾患概念です。平衡感覚は耳(内耳)と目(視覚)、体(足の裏からの体性感覚)からの3つの情報を小脳で統合することにより司られていますがPPPDは、先行するめまいが治った後も、目と体からの2つの情報伝達の乱れが残ることにより起こると考えられています。3カ月以上続く浮動感、不安定感、非回転性めまいが主な症状で、これらの症状が、1)立ったり歩いたりすること、2)体を動かしたり、動かされたりすること(エレベーター、エスカレーター、電車、バスへの乗車など)、3)複雑な模様(色合いや凹凸)や激しい動きのある映像を見ること(大型店舗の陳列棚、細かい書字、映画、スクロール画面、ドローン撮像動画など)、により悪化します。残りの10%程度は脳卒中、脳腫瘍などで頭痛、意識障害、ろれつがまわらない、手足のしびれが伴う症状でこれは急を要します。

漢方と鍼灸

 脳卒中、脳梗塞、くも膜下出血、脳腫瘍などは急を要し、大病院での処置が大前提です。
突発性難聴もすぐステロイド療法を受けた方がいいと思います。
 メニエール病や良性発作性めまい、起立性めまい、低血圧、高血圧によるめまい、更年期障害や女性疾患によるめまい、貧血によるめまい、ストレスによるもの、内耳によるめまい、神経によるものなど病院での治療で良くならない場合、併用したい場合、漢方鍼灸をお試しになられたら如何でしょうか。水をさばくもの、血をながすもの、血を増やすもの、気をめぐらすもの、気を増すもの、東洋医学の治療は複雑ではなくシンプルです。

せん妄

 せん妄とは、場所や時間を認識する“見当識”や覚醒レベルに異常が生じ、幻覚・妄想などにとらわれて興奮、錯乱、活動性の低下といった情緒や気分の異常が突然引き起こされる精神機能の障害です。夕方や夜間にかけて発生することが多く、大半は数日以内で改善していきますが、昏睡こんすい状態に陥ったり、死に至ったりするケースもあります。また、錯乱状態に陥ることによる転倒や、治療に必要な点滴の自己抜去などさまざまなトラブルを引き起こすことも特徴です。せん妄の原因はさまざまであり、多くは高齢者が発症します。一方で、手術や入院など通常とは異なる状況に置かれると若い方が発症するケースもあります。せん妄の西洋医学的治療は、気分を落ち着かせたり、睡眠を促したりする薬による薬物療法が主体となります。しかし、せん妄を改善するには周囲の環境を整えることも大切であり、適切な対処がなされない状態が続くと症状が急激に悪化することもあるので注意が必要です。

 せん妄は内科的な病気や脳の病気などが根本的な原因となって精神的な変調をきたした状態のことであり、その原因は非常に多岐にわたります。年齢が高くなるほど発症率は高くなり、特に脳卒中、認知症、パーキンソン病などの神経や脳に異常をきたす病気の既往がある高齢者は風邪や便秘、脱水、睡眠不足など普段と異なる状況が刺激となって突然発症することがあります。また、若年者でも高熱、肺炎、腎不全など体の状態が著しく低下する病気を発症するとせん妄を起こすこともあります。さらに、せん妄は体の状態だけでなく、環境的な変化によるストレスもひとつの要因となります。具体的には、集中治療室(ICU)をはじめとした閉ざされた環境での入院中、手術後などにせん妄を発症しています。また、そのほかにも鎮静剤や医療用麻薬、抗うつ薬、ステロイドなどの薬剤の副作用としてせん妄が生じることがあります。

 せん妄は突然発症するのが特徴であり、見当識(時間、場所などの認識力)、思考力、注意力の低下が生じて妄想や幻覚に支配されるようになります。その結果、過度に興奮して錯乱状態となったり逆に活動性が著しく低下して眠った状態になったりするなど、行動や睡眠リズムに異常をきたします。せん妄は一時的に強い症状が現れますが、適切な治療や対処を行うことで数日以内に軽快するのが通常です。一方で、がんの末期など重篤な状況で発生する場合もあり、改善しないこともあります。また、症状の現れ方は1日の中でも変動があり、一般的には夕方から夜間にかけて悪化して昼夜逆転が生じる結果、日中は活動性の低下が目立ちます。

漢方と鍼灸

 脳卒中、認知症パーキンソン病などの神経や脳に異常をきたす病気、高熱、肺炎、腎不全、癌など体の状態が著しく低下する病気、ストレスなどで発症することからせん妄の症状を緩和する標治と原因となる疾患を改善させる本治が必要となります。脳の異常波長を経絡に落とし込んで、精神的な変調を改善させる漢方鍼灸治療をしていきます。

帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛・ハント症候群

 帯状疱疹とは水痘(水ぼうそう)と同じように、水痘・帯状疱疹ウイルスを原因として発症する病気です。帯状疱疹は50歳以降で発症する人が多く、加齢とともに発症率が高まる傾向にあります。しかし若い人であっても、疲れが蓄積すると帯状疱疹を発症することがあります。またエイズやがん、疫抑制薬の服用などに関連して水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫力が低下すると、帯状疱疹を発症しやすくなります。

 はじめは皮膚がピリピリするような痛みを感じ、時間の経過とともに赤みや水疱形成などの皮膚症状が現れます。時に全身に水痘のような発疹が広がる場合や、顔面神経麻痺や視力障害をきたすこともあります。皮疹が治った後も疼痛や感覚異常が数か月から数年にわたって続くことがあり、帯状疱疹後神経痛と呼ばれています。帯状疱疹は加齢に伴って発症率が高くなり、特に50歳代から急激に増加し、80歳までに約3人に1人が発症するとされています。初めて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると水痘として発症し、その後もウイルスは生涯にわたって体内に潜伏します。普段は悪さをすることはありませんが、ストレスや疲れ、免疫機能の低下などに伴い体内に潜んでいたウイルスが再活性化すると、帯状疱疹を発症します。

 帯状疱疹では通常、体の左右どちらかに紅斑が帯状に広がり、その上に小さな水ぶくれが生じてきます。“帯状疱疹”という病名は、このような皮膚症状の特徴に由来しています。症状がよく現れる部位として肋間神経のある胸や背中が挙げられますが、顔、下腹部、腕、脚、お尻など体のどこにでも出現します。重症の場合には局所の皮疹に加え、全身に水痘のような発疹が生じることもあります。帯状疱疹による発疹はピリピリ、チクチクするような痛みを伴います。そのため、発疹だけでは虫刺されやかぶれと鑑別が難しいケースでも、痛みの症状によって見分けがつくこともあります。水ぶくれには膿や血を含むことがあり、治癒とともにかさぶたになります。

 神経痛は急性期の痛みと帯状疱疹後神経痛に分けられます。急性期の痛みはしばしば発疹の出現よりも前から現れ、体の左右いずれかの皮膚にピリピリ、チクチクとした痛みを感じます。帯状疱疹後神経痛は皮疹が治った後も数か月から数年にわたって続く頑固な痛みです。「焼けつくような」「電気が走るような」と表現される特徴的な痛みで、衣類がこすれたり、冷風が当たったりするだけでも強い痛みが引き起こされることがあります。症状には個人差があり、人によっては夜も眠れないほどの痛みが生じることもあります。帯状疱疹後神経痛は年齢が高くなるほどリスクが高くなります。

 また耳周囲の帯状疱疹では、ハント症候群と呼ばれる合併症を引き起こすことがあります。ハント症候群では顔面神経麻痺(口をうまく閉じられず食べ物が口からこぼれる、目を閉じられないなど)のほか,難聴、めまい、味覚障害などの症状がみられます。ひたいからまぶたや鼻にかけての帯状疱疹では結膜炎、角膜炎などの目の合併症状を引き起こすことがあります。重症化すると視力が低下するほか、ごくまれに失明に至ることもあります。

西洋医学的治療
 帯状疱疹に対しては、抗ウイルス薬による薬物治療が行われます。皮疹が現れたら、できるだけ早く抗ウイルス薬を服用し、症状の緩和や合併症の軽減を目指すことが大切です。皮疹出現から3日以内に治療を開始するのが理想です。抗ウイルス薬としては「バラシクロビル」または「ファムシクロビル」が使用されます。また2017年より新しい作用機序を持つ抗ウイルス薬「アメナメビル」も治療の選択肢に加わりました。ただし重症の場合には入院して抗ウイルス薬を点滴静注することもあるそうです。
 帯状疱疹にかかった後、帯状疱疹後神経痛が生じてしまった場合には、薬物療法、局所療法などのさまざまな治療法を組み合わせて症状の改善を目指します。薬物療法では、従来から使用されてきた抗うつ薬やワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液に加え、近年では神経伝達物質の放出を抑制し鎮痛効果を発揮する「プレガバリン」や「ミロガバリン」、弱オピオイドの「トラマドール」などが登場し、治療の選択肢が広がってきています。帯状疱疹後神経痛の治療は長期間を要することが多く、一筋縄ではいかないこともあります。上記の治療のほかに保険適用外の治療法を使用することもあります。最近では50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンを使用できるようになり、ワクチンによる予防が可能となりました。

漢方と鍼灸

 相談に来られる方は、上記治療を受けても痛みがとれない、薬が合わず体の具合が悪くなる、もっと早く治したいなどの理由でご相談に来られる方が多いです。最近ではコロナワクチンを複数回受けてから帯状疱疹を発症した、テレワークで運動不足で免疫が落ちて発症したなどの理由で罹患する場合も増えています。抗ウイルス薬の効き方と自分の免疫を高めてウイルスをたたく効き方に違いがあるように感じます。両方うまく作用すれば相乗効果で効き目も良くなります。また患部の状態から太陽病期、少陽病期、少陰病期なのかを判断して漢方もお出しします。鍼灸でも患部から経絡に落とし込んで治療していきます。

とびひ(伝染性膿痂疹)

 とびひ(伝染性膿痂疹)とは、おもに小児期にみられることの多い細菌皮膚感染症です。膿疱(膿汁のたまった水疱)と、かさぶたを伴う皮膚病変(膿痂疹)が見られますが、小さな切り傷やアトピー性皮膚炎等のかき傷から広がることが多く、黄色ブドウ球菌や溶血性連鎖球菌といった細菌が原因となります。膿痂疹は、容易に別の部位に波及していきます。その伝播の様式があたかも火事が周囲に広がる様に似ていることから、一般的には「とびひ」という別称で知られています。伝染性膿痂疹は、黄色ブドウ球菌とA群β溶血性連鎖球菌という2種類の細菌が原因となります。それぞれ細菌によって皮膚症状が若干異なる部分もあることが知られています。

 水ぶくれが主体となるものは「水疱性膿痂疹」で、おもに黄色ブドウ球菌が原因です。黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹は、夏場、幼児に流行することが多いです。やけどを起こすと水ぶくれ(水疱)が生じますが、同じような水ぶくれを引き起こす毒素が黄色ブドウ球菌によって作られ、この毒素が原因となり水疱性膿痂疹が発生します。また、発症原因には、通常の抗生物質に耐性を示す市中感染型MRSA(耐性黄色ブドウ球菌)も、原因菌のうち約30%の割合で見られます。
 かさぶたがメインとなる伝染性膿痂疹を、「痂皮性膿痂疹」と呼びます。「痂皮」とは、かさぶたのことです。痂皮性膿痂疹は、A群β溶血性連鎖球菌が原因となって引き起こされ、年間を通して見られる傾向があります。水疱性膿痂疹に伴うものより、局所の炎症所見が強いことも多く、発症年齢層も幼児に限らず幅広くなります。

 伝染性膿痂疹の発症には、いくつかのリスク要因が知られています。皮膚症状は人から人に伝播することから、たとえば保育園や幼稚園等の集団生活、フットボールやレスリング等の接触の多いスポーツなどは、伝染性膿痂疹が流行する危険因子です。また、原因となる細菌は、正常な皮膚バリアが損傷を受けた部位から容易に侵入します。そのため、小さな傷口やアトピー性皮膚炎・湿疹等のかきむしった痕、虫さされなども、伝染性膿痂疹の原因となりえます。

 黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹の皮膚症状は、痛痒さを伴う赤い発疹ほっしんから始まり、水疱を形成します。水疱の中身に徐々に膿が入るようになり(膿疱と呼びます)、容易に破れます。破れた部位は湿潤な状況が継続し、最終的にかさぶたが形成されますが、きちんと治療しないと症状は広がっていきます。典型的な水疱性膿痂疹は皮膚が傷ついた部位から始まり、鼻(鼻いじりをするお子さんに多いです)や、腕(アトピー性皮膚炎をかきむしった痕に多いです)などの部位に症状が広がります。水疱が破れた痕には細菌が大量に存在するため、タオルや自分自身の手を介して、容易に別の部位に細菌がうつり、同様の皮膚症状を発症します。

 A群β溶血性連鎖球菌が原因となる痂皮性膿痂疹の場合は、炎症が強く、痛みの症状がより強い傾向があります。さらに、全身症状として、発熱やリンパ節の腫れ、喉の痛みを伴うこともあります。伝染性膿痂疹の皮膚症状は、基本的に痕を残すことなく治癒することが期待できますが、なかには瘢痕を残すこともあります。

 

伝染性膿痂疹は、合併症を伴うこともあります。黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹の場合、毒素が全身に広がり、全身にやけどのような水疱を形成することがあります。この状態を「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群」と呼びます。ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群になると、赤い皮疹に触れると簡単に皮膚がめくれるようになります。また、A群β溶血性連鎖球菌が原因の場合は、炎症の表れ方が強い傾向があります。そのため、皮膚の中でもより深くに炎症を引き起こすこともあり、細菌が血液に侵入して全身に細菌が広がることもあります(敗血症)。全身に細菌が広がると、高熱や血圧低下といった症状が現れることがあります。
 さらにA群β溶血性連鎖球菌の場合、伝染性膿痂疹を発症してから数週間の時間をおいて、急性糸球体腎炎を発症することもあります。急性糸球体腎炎になると、まぶたや足がむくんだり、血尿やたんぱく尿が出たりすることもあります。

漢方と鍼灸

 この病気はウイルスではなく細菌が原因です。ですが伝染するので周囲に対して配慮をする必要があります。病院で抗生物質が出ると思いますが、なかなか治りが悪い場合、抗菌漢方を併用するといい場合があります。そして細菌に対して抵抗力がないと増殖を許してしまうことから免疫力も重要です。各症状に対してもお薬が出ますが、うまくいかないときご相談されることがあります。太陽病から陽明病までの漢方で対応し、体の奥(裏)に菌が侵入しないように早めの対処が必要です。

ヘルパンギーナ

 ヘルパンギーナとは、コクサッキーウイルスやエコーウイルスなどに感染することによって、発熱・喉の痛み・口腔粘膜の水膨れなどが現れる病気のことです。主に小児の間で夏に流行しやすく、いわゆる“夏風邪”の一種とされています。ヘルパンギーナは小児の間では比較的よく見られる感染症です。口の中にできた水疱が唾液などの刺激で破れるため強い痛みを引き起こし、十分な飲食ができなくなることで脱水症状に陥るケースも少なくありません。また、重症化すると髄膜炎や心筋炎を発症することも知られています。一方で、ヘルパンギーナの原因となるウイルスに対する抗ウイルス薬は現在のところ開発されておらず、治療は発熱や喉の痛みなどの症状を緩和させるための“対症療法”が行われるのみです。そのため、ヘルパンギーナの流行時期には適切な感染対策を行っていくことが大切です。
ヘルパンギーナはウイルスに感染することによって引き起こされる咽頭炎です。

 発症の原因となるウイルスは、コクサッキーウイルスやエコーウイルスなど“エンテロウイルス”と呼ばれるタイプのウイルスとされています。これらのエンテロウイルスは接触感染(物に付着したウイルスに触れ、その手で口や鼻に触ることで体内に取り込んでしまう感染経路)と飛沫感染(ウイルスが含まれる感染者の唾液のしぶきを吸い込むことで体内に取り込んでしまう感染経路)によって感染が広がっていきます。そのため、保育園・幼稚園・学校など子どもたちが密接して過ごすような環境で流行しやすいと考えられています。また、これらのエンテロウイルスは便とともに排出される性質があり、症状が治まっても2~4週間ほどは便にウイルスが含まれるため注意が必要です。

 ヘルパンギーナは、原因となるウイルスに感染後、2~4日ほどの潜伏期間を経て発熱を伴う喉の痛みが現れます。また、同時に口の中の粘膜には直径1~5mm程の水膨れが形成されるようになります。発熱や喉の痛みは発症して2~4日ほどで自然に改善していきますが、口の中にできた水膨れは飲食や歯磨き、会話などで口を動かすことが刺激となって破れ、潰瘍となります。潰瘍となった水膨れは非常に強い痛みがあり、特に飲食物の刺激で痛みが増すのが特徴です。そのため、十分な水分や食事を取ることができず、脱水状態に陥ることも少なくありません。とくに水分保持能力の低い乳幼児は注意が必要です。一方で、ヘルパンギーナは強い症状が現れますが自然に回復することがほとんどです。ですが、重症化した場合はまれに髄膜炎や心筋炎などを引き起こして命に関わるケースも報告されています。

 確定診断の必要がある場合には、口・喉の粘液、水膨れにたまった液体、便などにヘルパンギーナの原因ウイルスの遺伝子が存在するか調べる“PCR検査”が行われます。また、血液検査では原因ウイルスの抗体(原因ウイルスを攻撃するたんぱく質)の有無を調べることも可能であり、ヘルパンギーナの経過中に髄膜炎や心筋炎を発症した際などで診断のために検査を行うことがあります。

漢方と鍼灸

 発熱、のどの痛み、口腔内の水疱や潰瘍の状態に対処しつつ、ウイルスが原因なので体の中で抗体(ミサイル)を作りやすいように補う漢方が必要です。自然緩解することが多いと言っても髄膜炎や心筋炎になる場合もあるので念には念を。

手足口病

 手足口病とは、手のひらや足の裏、口の中などに小さな水ぶくれのような発疹を引き起こす病気のことです。コクサッキーウイルスやエンテロウイルスに感染することによって発症する感染症であり、小児を中心に夏季に流行します。発症者の約9割は5歳以下の小児とされており、原因となるウイルスに一度感染すると免疫ができるため、同じウイルスに再び感染したとしても手足口病を発症することはありません。しかし、手足口病の原因となるウイルスは複数あるため再発することも多々あり、近年では成人が発症するケースも増えています。手足口病は発疹のほか発熱が見られることもありますが、多くは1週間以内で自然に軽快するとされています。しかし、まれに髄膜炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。手足口病は、コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどのウイルスに感染することによって引き起こされる病気です。これらのウイルスの主な感染経路は“飛沫感染”とされており、ウイルスが含まれた感染者の咳やくしゃみのしぶき(飛沫)を吸い込むことによって感染します。また、手足口病の原因となるウイルスは、咳やくしゃみのしぶきのみではなく便とともに排泄されることが分かっています。そのため、オムツ交換時や、ドアノブ、レバーなどに付着したウイルスに触れてしまうことによって感染する(接触感染)こともあります。そのほか、ウイルスは水ぶくれの内部にも含まれているため、水ぶくれが破れるとそこから排出されたウイルスによって感染が広がることも少なくありません。手足口病は、原因となるウイルスに感染した後、3~5日ほどの潜伏期間を経て口の中、手のひら、足の裏、肘、膝、お尻などに小さな水ぶくれが現れるのが特徴です。水ぶくれは痛みやしびれなどを引き起こすことがあり、特に口の中の水ぶくれは飲食の刺激などで破れると口内炎のような潰瘍かいようを形成することも少なくありません。そのため、十分な飲食ができなくなるケースもあります。また、発症者の約3割には38℃以下の微熱が見られますが、多くは数日で自然に解熱し後遺症を残すことはまずありません。しかし、まれに体内で増殖したウイルスが血液に乗って髄膜や脳に波及すると、髄膜炎や脳炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。さらに近年では、手足口病の症状が軽快して1か月以内に、手足の爪が剥がれ落ちるといった症状があることも報告されているので、症状が落ち着いた後も慎重に経過を見ていく必要があります。

 手足口病の原因ウイルスに対する抗ウイルス薬は開発されていないため、現時点で手足口病を根本的に治す治療はありません。そのため、治療はそれぞれの症状を和らげるための“対症療法”が主体となります。また、手足口病は症状が改善した後も2~4週間は便の中に排出される性質があります。そのため、オムツ交換やトイレの使用時は手洗いと手指消毒を特に徹底して行うようにしましょう。

漢方と鍼灸

 患部の状態と発熱の状態を把握して太陽病と少陽病の漢方を出すことが多いです。またウイルスに対して抗体(ミサイル)を作りやすくするためにその子にあった漢方を出します。鍼灸では手当や接触鍼(皮膚をなでる)をする場合があります。 

単純ヘルペスウイルス感染症

 単純ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルス1型または2型による感染症の総称です。一般的なものとして、口唇ヘルペスと性器ヘルペスがあります。 単純ヘルペスウイルスは一度感染すると神経節と呼ばれる部分に潜伏し、治療によって完全に排除されることはありません。ストレスや風邪、日光を浴びるなどを契機にウイルスが活性化し、繰り返し再発するという特徴があります。単純ヘルペスウイルス1型は主に口唇など上半身に症状が出やすく、ウイルスを排出している人とのキスや同じ食器などが原因で感染します。以前は多くの人が思春期ごろまでにすでに感染していると考えられていましたが、近年の若者の抗体保有率(感染している人の割合)は45%程度です。単純ヘルペスウイルス2型は主に性器など下半身に多く発症し、性交などの皮膚や粘膜、体液との接触で感染します。性器ヘルペスを有する妊婦では、新生児が出生する際に産道で感染することもあります。また、単純ヘルペスウイルス2型による性器ヘルペスは1型によるものよりも再発が高頻度にみられます。性交やその類似行為の際はコンドームを正しく使用するなど、感染予防が重要です。

 ヘルペス性歯肉口内炎は、乳幼児が単純ヘルペスウイルス1型に初感染した際にもっとも多くみられる症状で、口の内に水疱やびらんが多発し、熱が出たりリンパ節が腫れたりします。痛みで飲食ができず、入院する場合もあります。出産時に母親が性器ヘルペスを発症しているときに新生児が産道で感染すると、生後数日で高熱やけいれん、呼吸不全を起こし死亡することもあります。またヘルペス脳炎といって脳や脊髄せきずいに感染し、麻痺などの後遺症を残すこともあります。性器ヘルペスの初感染では性器に痛みの強い水疱、びらんが多発し、排尿障害を起こすことがあります。カポジ水痘様発疹症はアトピー性皮膚炎などの皮膚の疾患がある人に多く、単純ヘルペスの病変が全身に広がることがあります。これは初感染だけではなく、ウイルスの再活性化でも起こります。

 一般的に再発性の口唇ヘルペス、性器ヘルペスでは、口唇や性器などの周りに赤みのある小さな水疱が集まって発生し、ピリピリとした痛みを伴うこともあります。ウイルスの再活性化はストレスや疲労、風邪などで体力が落ちたときや、日光の照射、寒冷などさまざまなことがきっかけとなります。また免疫抑制剤や抗がん剤での治療中や、HIV感染者など免疫力が低下している人では再発の頻度が高くなり、また重症化する傾向があります。単純ヘルペスと似た症状を生じる疾患として、帯状疱疹や毛嚢炎(毛穴の感染症)、膿痂疹(とびひ)などがあり、鑑別するためには詳しい検査が必要となることがあります。むずむず、ちくちくなどが前駆症状なので早めに対処しましょう。

漢方と鍼灸

 患部の状態に対して、例えば水疱期(水ぶくれ)にはこの漢方といった具合に出すことを標治療法、大局的にみて免疫の低下を改善していくことを本治療法といいます。鍼灸も患部の状態から経絡に落とし込んで治療していきます。体を整えて再発を繰り返さないように養生することが大切ですね。 

甲状腺機能亢進症・低下症・甲状腺炎

 

 甲状腺は、のどぼとけの少し下にあるH字型の小さな臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンはfT3(フリー・トリヨードサイロニン)、fT4(フリー・サイロキシン)の2種類から成り、全身の細胞に活力を与える働きを持っています。
甲状腺の働きが活発な状態、すなわち甲状腺ホルモンの分泌が盛んな状態を、甲状腺機能亢進症といいます。別名、バセドウ病ともいいます。甲状腺機能亢進症は、TSH受容体抗体(TRAb)、甲状腺刺激抗体(TSAb)という特殊なタンパク質が甲状腺を直接刺激してしまうことによって発病します。その結果、甲状腺ホルモンの分泌が盛んになるため、血液中の甲状腺ホルモン値が高くなります。一般的に、女性に多く見られることが特徴です。しかしTSH受容体抗体が体のどこで、どうしてできてしまうのかは全く分かっていません。

 一般的に甲状腺機能亢進症では、食べても食べてもやせてしまう、疲れやすい、よく眠れない、心臓がどきどきするなどの動悸、汗をかきやすい、下痢しやすい、(女性では)生理がなかなか来ないといった症状があります。また、手の指が小刻みに震える、毛が抜けやすいといった症状も見受けられます。また、未治療の甲状腺機能亢進症に過度のストレス等が加わった結果、重い甲状腺機能亢進症となってしまうことがあります。これを甲状腺クリーゼと呼び、集中治療を要することがあります。

 

 甲状腺機能亢進症に合併することのある主な病気は心房細動といい不整脈の1つで、脈が不規則でかつ非常に速くなります。心房細動によって心臓の働きに負担がかかると、全身の血液のめぐりが悪くなり、体がむくむことがあります。もう一つは眼球突出という、眼が前に突き出たような状態になることがあります。これをバセドウ病眼症といいます。甲状腺機能亢進症を適切に治療することによって眼球突出の改善がみられるケースもありますが、眼球突出の程度が強いものは内科の治療と平行して眼科での専門的な治療を要します。なお、タバコはバセドウ病眼症を悪化させますので、禁煙指導を行います。3つ目は、激しい運動や過食の後しばらくしてから手足に力が入りにくくなることを繰り返すことが特徴です。まれな合併症ではありますが、男性に多くみられます。
甲状腺が比較的柔らかくはれていて、痛みやしこりがなく、血液検査で甲状腺ホルモン(fT3および/またはfT4)値が高ければ、甲状腺機能亢進症が疑われます。そして、血液検査でTSH受容体抗体もしくは甲状腺刺激抗体(TSAB)がはっきりと陽性であることが確認できれば、甲状腺機能亢進症の可能性が高いと判断します。

 甲状腺機能低下症とは、血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態です。症状には、一般的に、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などがあります。軽度の甲状腺機能低下症では症状や所見に乏しいことも多いです。甲状腺機能低下症が強くなると、傾眠、意識障害をきたし、粘液水腫性昏睡と呼ばれます。また、甲状腺ホルモンは、代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンなので、甲状腺機能低下症では、月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児や乳児あるいは小児期の成長や発達の遅れとも関連してきます。
 甲状腺機能低下症の原因は、甲状腺でのホルモンの合成と分泌が低下した場合と、甲状腺ホルモンは十分に供給されているのに、標的組織の作用に異常があってホルモン作用が発揮されない場合があります。前者には、甲状腺自体に原因がある場合(原発性甲状腺機能低下症)と、甲状腺自体には異常はないのですが下垂体や視床下部の機能低下が原因の場合(中枢性甲状腺機能低下症)があります。後者は甲状腺ホルモン不応症と呼ばれ、甲状腺ホルモン受容体の先天異常が原因であることが多いです。

・原発性甲状腺機能低下症(甲状腺が異常)
 原発性甲状腺機能低下症で最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)です。橋本病は自己免疫疾患の一つで、主な症状は、甲状腺全体の腫れです。大きさはほとんどわからないものから非常に大きいものまでと様々ですが、首の前の部分の不快感や圧迫感を感じることもあります。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体あるいは抗サイログロブリン抗体といった甲状腺に対する自己抗体が陽性となります。上記のような症状の他に、徐脈、心肥大、うつ状態、アキレス腱反射低下、筋力低下、脱毛(頭髪、眉毛)、皮膚乾燥、過多月経、低体温などが所見としてみとめられます。また、昆布、ヨード卵、ヨウ素含有咳嗽液などヨウ素(ヨード)過剰摂取によっても甲状腺機能低下症を認めることがあります。他には、甲状腺の術後や放射性ヨード治療後、頭や首に生じた悪性腫瘍やリンパ腫に対する放射線外照射療法後、抗甲状腺薬による治療などの医学的治療後、先天性甲状腺機能低下症、ヨウ素欠乏などがあります。
甲状腺機能低下症は永続性である場合と一過性(一時的)である場合があります。一過性のものには、破壊性甲状腺炎の回復期、産後一過性甲状腺機能低下症、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症(摂取制限をするだけで改善します)があります。

・中枢性甲状腺機能低下症(甲状腺に異常なし)
 中枢性甲状腺機能低下症には、下垂体が原因の下垂体性甲状腺機能低下症と視床下部が原因の視床下部性甲状腺機能低下症があります。中枢性甲状腺機能低下症の原因は、脳腫瘍、脳外傷、くも膜下出血後(十年以上して発症することも)、脳外科手術後、ラトケのう胞などの脳の病気や、下垂体前葉機能低下症の一症状として起こる場合、自己免疫性下垂体炎などです。

 甲状腺機能低下症の治療には、甲状腺ホルモンである合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用による治療を行います。鉄剤、亜鉛含有胃潰瘍薬、アルミニウム含有制酸剤などは甲状腺ホルモン製剤の吸収を阻害するので、内服間隔をあけることが必要です。また抗痙攣薬や抗結核薬と併用時には増量が必要な場合もあります。高齢者や、冠動脈疾患、不整脈のある患者さんでは慎重に内服を開始します。成人の合成T4製剤チラージンSの内服維持量は50〜150µg/日です。内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に増やします。維持量に達するのには数か月かかります。妊娠中は、甲状腺機能低下症を急速に改善する必要があるので、診断後は100〜150µg/日で開始します。

 よくみられる原発性甲状腺機能低下症は、一過性の甲状腺機能低下症か永続性の甲状腺機能低下症かを見極めて治療を行う必要があります。出産後自己免疫性甲状腺症候群を含めた無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎の回復期の場合には様々な程度の甲状腺機能低下症を示すことがあります。そのような場合、一過性の軽度の甲状腺機能低下症は治療の必要がありません。また、症状があって治療を行う場合も、一過性の可能性のある場合は、薬の量を漸減中止してみます。

 甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値の場合は、潜在性甲状腺機能低下症と言います。我が国での調査では健康な人の4~20%にみとめられるといわれており、特に女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。治療すべきかどうかについては、未だに議論が多いですが、持続性にTSH値が高値の場合や、妊娠を前提とした場合や妊婦に対しては合成T4製剤の内服を開始します。

漢方と鍼灸

 自己免疫疾患によるホルモンの暴走ととらえると患者様が訴える症状は標治、本治は免疫の調整です。免疫が壊れる原因はストレスや冷え、疲労、加齢によるホルモンの減少など様々。自律神経を安定させ、免疫を調整し、結果として内分泌(ホルモン)が整う。これはまさにホメオスタシスの関係です。ですから治療期間は少しかかりますが、腰を据えて免疫を整えることです。漢方鍼灸でも甲状腺部位から経絡に落とし込んで標治と本治を併行していきます。

起立性調節障害

 たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。近年の研究によって重症なものでは、自律神経による循環調節(とくに上半身、脳への血流低下)が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになりました。発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%。不登校の約3-4割に起立性調節障害を併存する。性差 男:女 1:1.5~2で好発年齢10~16歳、遺伝・家族性の約半数に遺伝傾向を認めます。起立に伴う循環動態の変動に対する自律神経による代償機構の破綻や心理社会的ストレス(学校ストレスや家庭ストレス)が関与する。身体が辛いのに登校しなければならないという圧迫感が、さらに病状を悪化させる日常の活動量低下→ 筋力低下と自律神経機能悪化→ 下半身への過剰な血液移動→ 脳血流低下→ 活動量低下という負のスパイラルに陥っていきます。

 具体的症状は、立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向があります。また立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。身体面では、概日リズム睡眠障害(睡眠障害)、失神発作(けいれんを伴うこともある)、著しい頻脈もあり、脳血流低下に伴う集中力や思考力の低下、学業低下、長時間臥床など日常生活の低下、長期欠席など、発達障害やその傾向性を伴う学校不適応や不登校などにも。

 立ちくらみ、失神、気分不良、朝起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中に調子が悪く午後に回復する、食欲不振、車酔い、顔色が悪いなどのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかんなどの神経疾患、副腎、甲状腺など内分泌疾患など、基礎疾患を除外して考えます。

 中等症や重症の多くは倦怠感や立ちくらみなどの症状が強く、朝に起床困難があり遅刻や欠席をくり返していますが、保護者の多くは、子どもの症状を「怠け癖」や、ゲームやスマホへの耽溺、夜更かし、学校嫌いなどが原因だと考えて、叱責したり朝に無理やり起こそうとして、親子関係が悪化することが少なくありません。・本人と保護者に対して、「ODは身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解を促すことが重要です。

漢方と鍼灸

 漢方で良くなることが多い疾患です。養生では水分は摂りすぎない、汗をかくまで運動し発散させる、水の偏在があるので余っているところから水分を移動し出していく。貧血気味なのでアミノ酸、ビタミン、ミネラルを補給する 冷たい物などで胃腸が弱っている子も多いため、冷水は禁止。朝食はパン食をやめてご飯と味噌汁を摂っていただく。先に味噌汁で胃を温めてから食事を始めるといいですよ。よく噛む。昼寝はしない。しても30分以内。夕食は早めにそして少な目。朝早く日の出とともに起きるまたは日を浴びながら目覚める(雨戸、遮光カーテンはしない)ことが大切。自分で起きられない子はまず体を起こしてあげることから始める。鍼灸は自律神経のツボから経絡に落とし込んで治療しますが、皮膚刺激を中心に行います。漢方も併用してください。

眼精疲労

 眼の疲れや眼の痛み、かすみ目、まぶしさ、眼の充血等といった目の疲れを感じることは多くの方が経験されるものであり、休養を取ることで疲れをとれることも多いです。眼精疲労でも同じような疲れを感じることになりますが、休息を取ることで症状の緩和がはかれない状態です。さらに眼精疲労では頭痛や肩こり、吐き気などの症状を呈するようになります。

 目に関連した眼精疲労としては、遠視や近視、乱視といった屈折異常に伴うものがあります。こうした屈折異常が存在すると、ものを見るという日常的な動作に関連して常時目に負担をかけることになります。眼鏡やコンタクトレンズによる矯正が適切でない場合も同様のため、ご自身に合った矯正を行うことが重要です。その他、老眼やドライアイ、白内障、緑内障なども眼精疲労の原因となります。その他、高血圧や虫歯、貧血、自律神経失調症などが原因となって眼精疲労が引き起こされることもあります。またVDT症候群とは、パソコンなどのディスプレイやキーボードのVDT 機器(Visual Display Terminals)を長時間連続して使用することによって、身体的疲労などの自覚症状がみられることです。画面に集中することによる瞬目(瞬き)回数の減少や目線の変化による開瞼(まぶたを開く)幅の増加によって起こるドライアイや眼精疲労が原因になります。また、裸眼で十分に見えていない、メガネやコンタクトの度数が合っていないといった状態も眼精疲労を悪化させる原因となります。

 厚生労働省のガイドラインでは連続した作業時間が60分を越えないようにし、作業と作業の間は10~15分の作業休止時間と1~2分の休憩を挟むように推奨しています。作業中は椅子に深く座り背もたれを十分使用することで、正しい姿勢を継続することにより筋骨格症状を軽減できます。

漢方と鍼灸

 目の健康も体の健康と同じように意識することが大切ですね。長時間物を見続けると目の周りの筋肉がこわばり血流が悪くなります。またディスプレイなどブルーライトを発するものを見続けるのも良くないので、フィルターを使ってカットしましょう。抗酸化力のあるものを食養生としてとることもおすすめです。気血水で考えると疲労・血流・潤い、関係の深い臓腑は肝、腎です。木を見て森を見よ。目だけ見ても対症療法となってしまいます。鍼灸も目の異常波長をとらえて経絡に落とし込んで治療していきます。